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 去年の秋、突然実家の母から電話がかかってきた
 「お父さん、癌かもしれないって」
 あわてて週末に行ってみると、えらい落ち込みよう。かなりの狼狽ぶりがうかがえる。家の中もすっかり暗くなっていた。
 「こんなことなら、もっと行きたいところに行っておくんだった」と、呟く父。海外旅行は去年行った香港が初めてである。カナディアンロッキーを見るのが夢だと前から言っていた。そこでつい私は口を滑らせてしまった。
 「もしかしたら誤診かもしれないじゃない。そしたら私がハワイに連れていってあげる」
 しかし、首を横に振る父。その当時は某癌研で再検査の結果待ちであった。連日の放射線検査でなかり疲労しているらしい。最初の告知以来、毎晩の晩酌もやめているとのこと。為す術もなく家に戻り、私たち夫婦まで悶々とした日々を過ごすことになってしまった。
 
 そんなある日。また実家から電話が入る。
 「誤診だったって・・・。じゃ、ハワイ連れてってもらおうか」
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